「国楽人が立つ舞台が、少しずつ消えています。伝統が顧みられない現実が、とても残念です」
この言葉は、国家無形文化財ガヤグム散調およびガヤグム並唱（Gayageum Byeongchang）の保有者であり、“人間文化財”として知られるイ・ヨンヒ名人のものだ。イ名人は、12月13日に開催された「2025 KBS 国楽大賞」で特別功労賞を受賞した。2000年から15年以上にわたり韓国国楽協会の会長を務め、国楽界の発展と制度的基盤づくりに尽力してきた功績が高く評価された。
「イ・ヨンヒ名人は、ガヤグムを“弾いている”というより、ただ優しく触れているようでした」
イ名人の演奏を鑑賞したある大学教授は、そう語った。ガヤグムに手を置くその所作自体がすでに芸術であり、弦をはじく音色は限りなく柔らかい一方、盛り上がる瞬間には台風の目のように強烈なエネルギーを放つという。
1938年、全羅北道・群山で生まれたイ・ヨンヒ名人は、幼い頃、町の祭りで舞われる僧舞（スンム）に魅せられ、伝統芸能の世界に強い関心を抱くようになった。
中学生時代には、群山の芸人キム・ヒャンチョから僧舞とサルプリを学び、風流人イ・ドギョルからガヤグムと短簫（タンソ）を、さらにガヤグム名人イ・ウンジョから散調を学んだ。次第に僧舞よりもガヤグムに強く惹かれていったという。
1958年、梨花女子大学社会学科に進学したイ名人は、「より良いガヤグム演奏者になりたい」という思いから、徳成女子大学国楽科を自ら訪ね、キム・ユンドク先生を師と仰いだ。また、ソン・グミョン（成錦妍）先生からもガヤグムを学び、その系譜は後に「イ・ヨンヒ流ガヤグム散調」と呼ばれる音楽的アイデンティティの形成において重要な柱となった。
こうした師事を通じて、イ名人はガヤグム演奏の精緻さだけでなく、国楽全体に対する深い専門性を身につけていった。大学4年生の時には、全国新人放送国楽競演大会でアジェン演奏により1位を獲得し、その才能を広く認められた。
1962年には、当代最高の芸人たちが教師として在籍していた国楽芸術学校に勤務。民俗音楽の大家たちから個人指導を受けるなど、韓国固有の音楽を幅広く体得し、芸術家としてさらなる高みに到達した。
その後、キム・ユンドク、ソン・グミョン（ガヤグム）、ハン・ヨンスク（舞踊）、チ・ヨンヒ（ヘグム）、パク・グィヒ（パンソリ）といった当代最高の名匠たちと共に後進の指導にあたり、国楽第1世代を育成する礎を築いた。この時期は「国楽の花が咲いた時代」とも評されている。
1991年、師の後を継ぎ国家無形文化財ガヤグム散調およびガヤグム並唱（Gayageum Byeongchang）の保有者に認定されたイ名人は、2000年から韓国国楽協会の会長として、国楽の大衆化と正統な継承に先頭に立ってきた。
特に注目されるのは、2022年の決断だ。イ名人は、生涯「10ウォンも無駄にしなかった」と語るほどの倹約生活の末に築いた、時価約200億ウォン（公示地価約54億ウォン）の土地を文化財庁に寄贈した。京畿道城南市金土洞に位置する5474平方メートル（約1656坪）の敷地で、長年暮らした自宅と菜園があった場所でもある。
イ名人は、この地に無形文化財のための伝承教育施設を建設してほしいとの意向を文化財庁に伝えた。現在、同施設は「無形遺産伝承教育館（仮称、金土洞国楽館）」として、2027年までに地下2階、地上4階規模で建設される計画が進められている。
国楽人が立つ舞台が減り、伝統が顧みられなくなっていく現実を誰よりも心配し、自らのすべてを捧げてきたイ・ヨンヒ名人。90歳を目前にした今も、ただ一つ「韓国の伝統が正しく受け継がれていくこと」を願い、生き続けている。
イ・ヨンヒは、まさに伝統芸術の生き証人であり、韓国国楽の“根”そのものだ。
ニュースカルチャーのM.J._mj94070777@nc.press
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